走り続けろ 敵は遠くにいるんだ

マイケル・ムーアキャピタリズム マネーは踊る」を観てきたのす。
 

 
銃社会」「保険制度」などに続く彼の標的は「資本主義」。アメリカの病根を「資本主義」そのものに見出し、批判の矢を飛ばした意欲作であります。サブプライム問題に代表される銀行の非道、金融の暗躍という事実を軸に、資本主義がいかに非人間的なシステムかを糾弾する、まあ正直話が大きすぎてぼやけてるんじゃねえかという気もするが、それでも「一緒に闘おう」と訴える彼の真摯な怒りが伝えるものは大きかったのです。

彼の作品の多くに共通するものとして、「『敵』を作り上げることで不満をそらし、問題だらけの現状を維持しようとする」システムへの怒りがあります。それは出世作ボウリング・フォー・コロンバイン」から一貫しており、権力者の常套手段として指摘されてきました。そう、アジェンダ・セッティングよりも敵を作る方が分かりやすい、いや寧ろアジェンダ(論点)の提示がそのまま「敵」の設定になってしまうのは人間の性なのかもしれません(この映画自体そんなとこあるのは否定できないが……)。
 
作中で「アメリカよりマシ」的な扱いをされていた日本でも、左右中道各々が悪の枢軸を定めて批判中傷絶え間ない状況です。この近視眼的な混沌の中で声を上げ、闘っていくことで状況は良くなるのか?果てにあるのは徒労感と無力感ではないのか?そんな「いつか来た道」に怯える頭でっかちの人間に叱咤を叩き付けることにこそ、この映画の、彼の真価があるのではないでしょうか。
 
余談だが、映画冒頭の現代アメリカを隆盛を極めながら滅んだローマ帝国になぞらえたシーン。「(ローマ帝国では)奴隷同士の残酷な殺し合いが喜ばれ……」というナレーションにオクタゴンでの殴り合いの映像が付けられていたのは悲しかったねえ!