入れ子のようなそうでないような

「渇き。」を観たのだが、そういえば「アクト・オブ・キリング」の感想を書いたままだったので載せる。
インドネシアでかつて行われた大虐殺。その当事者(した側)のじいさん、アンワル・コンゴに再現劇を演出させることで、じいさんがこれまで無自覚だった、自らの行為の罪深さを実感していく……という、「これぞドキュメンタリー」な必見の問題作なわけです。

出てくるお仲間がまた役者揃いでして、自省に向かうアンワル・コンゴと対照的に、意識して行為の重大性から目をそらし続けるアディ・ズルカドリ、間近で行われていた虐殺を「知らなかった」と主張するソアドゥオン・シレガル、虐殺に付随したレイプすら楽しい思い出話として話し、ショバ代徴収など現在進行形の悪人っぷりを隠さないサフィト・パルデデ、まあ、どいつもこいつも存在感が凄い。かっこつけた態度を見せながら、仲間たちとはどうしようもない下品な猥談をする姿を映し出されていたパンチャシラ指導者のヤプト・スルヨスマルノも趣深い。
その中でもいい味出してるのがアンワル・コンゴの取り巻き、ヘルマン・コト。蛙みたいな顔したデブにもかかわらず(マツコ・デラックスみたいと言われてるが、大雪りばぁねっとのオッサンの方が似ている)、長髪をいかして再現劇では女装も辞さず、上昇志向を持ちつつ、アンワル・コンゴの体調を気遣うとこもある。考えは浅いが人間的にはなかなか重層的です。
彼は撮影中、選挙に出馬します。そこでも無邪気に収賄の夢を語ってたりして処置なしやなこのおっさんという感じなんですが、やっぱり一応選挙ということで髪は切る。でまあ観客からすれば予想通りの結果になってストーリーは本筋に戻るわけですが、そしたらまた彼が長髪に戻ってる、時系列を入れ替えてるわけですね。そいでクライマックス、アンワル・コンゴが過去への悔悟をあらわにする、ちょっとなかなか凄い場面なんですが、よく考えたら選挙戦中、つまりその後も虐殺仲間とじいさんはきゃぴきゃぴやってるねっかと、まあ、フィクションみたいに単純にはいかんわなというその辺も含めてすごい作品でした。