降臨賞

タグは便宜上です(俺のタグ、他に[漫画][書籍][映画][格闘技][おっぱい]しかねえことに気付いた)。

【降臨賞】空から女の子が降ってくるオリジナルの創作小説・漫画を募集します。
条件は「空から女の子が降ってくること」です。要約すると「空から女の子が降ってくる」としか言いようのない話であれば、それ以外の点は自由です。
http://q.hatena.ne.jp/1231366704

何となくやってみたくなったので。
 

明星

いつの間にか編集部は夜10時をまわっていた。

ネットでの下調べに思いのほか時間を取られた。というより、あるサイトにハマっていたせいだ。全国の有志がアップした、空から降ってきた「彼女」たちの画像数百枚。その一人が昔の女に似ていたためだろうか。自殺未遂を繰り返し、一度は死線を彷徨いながら生き延びたあの女。俺は女の親をなじり、逃げ出した。
「……あほくせえ」
俺はテレビのリモコンを手に取った。
 
 「人の死を『僥倖』ととらえることは失言以前の問題ですよ。違いますか?」
 「人の死と定義すること自体が早計でしょう。是非を問う段階にすらない」
 
目当てのニュース番組では、元新聞記者とかいう爺さんの問いを、きつい顎をした美女が受け流しているところだった。経済学者にして美人の二世議員。目玉閣僚の失言騒動だ。
「落下少女の死は、日本にとって僥倖と言わざるを得ない」(2月8日、高松市の講演会で)
新たな獲物を得たメディアのエクストラヴァガンツァは3日目に入った。俺もあと2時間で、「問われる資質・美人失言大臣の来歴」を仕上げる必要がある。
 
 「では、あれは人ではないと?」
 「判断をする材料は私達は持っておりません」
 「そうかもしれません。しかし彼女ら……彼女らと言わせてもらいますが、彼女らの姿を見てまだ判断を留保することこそ、非人間的ではないのですか!?」
 
そう叫ぶと爺さんが手元のパソコンをカメラに向けた。俺が見ていたのと同じサイトだ。映るイメージは遠目にはミートソース。しかしすぐ裸の女と分かる。彩りは赤、黄、ピンク……屍体から弾けとんだ血と、脂肪と、脳漿の色だ。
 
やりやがった!テレビからは爺さんの怒鳴り声、スタジオの声、映像の順に消えた。俺の記事は「TV地上波で死体写真披露・元論説委員様ご乱心」へと切り替わるだろう。ありがたい。大臣の来歴──気鋭の女性エコノミストから御用学者のマネキン人形、そして新保守主義ラブドールへ。気にくわねえ経歴だが、正直この「失言」は叩きにくい。つい先月、同じことを書いたばかりだからだ。
 
2011年3月2日。静岡県で最初の女が空から降って以来、日本経済は乱高下した。日に3人のペースで降ってくる女は、アスファルトを血に染め、家屋を粉砕した。住家の補強、歩道の全面アーケード化、車の買い換え、一部業界にとっては間違いなく「僥倖」だった。
 
ようやく再開したテレビに、爺様の姿はなかった。大臣は顔を上気させ、日本人の矜持とやらをまくしたてる。そして例のサイト、落下死体の盗撮写真を集めたサイトも大騒ぎになっていた。テレビの話題ではない。アップされたばかりの動画についての反応だった。

 takeda 2014/02/11 22:26:32『これ、生きてるよ!』

女は木の枝でぼろぼろに切り裂かれながらも、確かに動いていた。そして大臣にそっくりだった。
 
……その瞬間、大臣の頭は爺さんの持つ椅子によって砕け散った。